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5.統合失調症の症状への対処法
1.統合失調症とは?でご説明した通り、統合失調症は、幻覚や妄想といった陽性症状、感情の平板化や意欲の低下などの陰性症状、そして認知機能障害を特徴とする精神疾患です。これらの症状は、患者さん本人だけでなく、その家族にも大きな影響を及ぼします。
統合失調症の症状が、ご家族にとって、どのような体験となり、どのような困難をもたらすことがあるのか、そして、ご家族自身と患者さんの双方にとって、どう対応することがよいかについて、考えてみましょう。
陽性症状(幻覚や妄想)への対処方法
幻覚や妄想は、患者さんの日常生活に大きな混乱をもたらします。ご家族も、患者さんの言動に戸惑い、コミュニケーションが難しくなることがあるでしょう。時には、妄想の対象が家族に向かい、関係が緊張してしまうこともあります。ご家族は、「病気の症状だと気づいてほしい」「治療を受けてもらいたい」と説得したくなるかもしれません。しかし、統合失調症の特徴として、患者さん自身が幻覚や妄想を現実だと確信しているため、周囲の説明を受け入れにくいことがあります。これを「病識欠如」と呼び、統合失調症の患者さんの約6割にみられると報告されています。
このため、家族が「それは事実ではない」と繰り返し否定すると、患者さんは「なぜ信じてくれないのか!」と怒ったり、「あなたにはわからない」と距離をとったり、時には家族を疑うこともあります。しかし、これは患者さんの性格や信頼関係の問題ではなく、脳の機能に起因する症状です。
それでは、患者さんが幻覚や妄想について話してきたとき、どのように対応すればよいのでしょうか?
統合失調症患者の家族であり、「病識研究」の専門家であるザビア・アマダー博士は、以下の4つの対応を推奨しています。
1. 傾聴する
まずは、否定せずに話を聴くことが大切です。「それはちがう」「そんなことあるわけない」と遮るのではなく、「今どんな気持ちなのか」「患者さんは、今何を経験しているのか」を理解しようとする姿勢を持ちましょう。
とはいえ、長時間の会話は家族にとって負担になることもあります。時間を区切りながら、患者さんの経験や気持ちに寄り添うことを意識しましょう。
2. 共感する
「幻覚や妄想に共感するなんて無理」と思うかもしれません。しかし、事実を認めることと、気持ちに共感することは別です。
例えば、「それは違うよ」と否定するのではなく、「そんなことがあったら、本当に心配になるよね」と、患者さんの気持ちに共感を示すことが大切です。家族が共感を示すことで、患者さんもまた家族の懸念や心配を理解できる可能性が高まります。
3. 同意できる点を見つける
患者さんと一緒に事実を観察し、共通点を探すことが有効です。
例えば、
• 「薬を飲まなくなってから、睡眠の調子はどう?」
• 「この前より元気そうに見えるけど、どう感じる?」
と、質問を投げかけ、共通認識を築いていくことで、患者さんと冷静に話し合える機会が増えます。
また、患者さんの将来の希望について話し合い、「一緒にどうしていこうか」と考える姿勢も大切です。
4. 協力関係を築く
患者さんを「説得する」「治療を強要する」という姿勢ではなく、一緒に問題を解決していくというスタンスが重要です。
このとき、役立つのが「外在化」のテクニックです。つまり、患者さんと「病気」を切り離し、共に「問題に対処する」立場になるという方法です。
例えば、「あなたは統合失調症なんだから、治療を受けなきゃいけない」ではなく、「最近、眠れないことが増えて大変そうだけど、何かできることある?」
のように、患者さんが受け入れやすい表現を選ぶと、対立を避け、協力しやすくなります。
「病気」という言葉を使わず、「不眠」「不安」「モヤモヤ」など患者さんの経験に沿った表現を用いることも効果的です。
参考文献:ザビア・アマダー、アンナ=リサ・ジョハンソン著、江畑敬介、佐藤美奈子訳.「私は病気ではない―治療をこばむ心病める人たち」、星和書店
陰性症状への対処法
陰性症状は、患者さんにとってつらいだけでなく、家族にとっても大きな負担となることがあります。• 患者さんの気持ちが分かりづらい:「何を考えているのか分からない」「話しかけても反応が薄い」
• どう対応すればよいのか分からない:「怠けているのでは?」「どこまで助けるべき?」
• 精神的・身体的な負担:「支え続けるのがしんどい」「疲れがたまる」「誰にも相談できない」
• 経済的な不安:「仕事を辞めてしまったらどうしよう」「将来の生活が心配」
しかし、「もっと頑張ってほしい」と叱咤激励することは、逆効果になる可能性があります。
家族の感情的な表現(高EE:高感情表出)が高いと、統合失調症の再発率が上昇することが研究で示されています(Butzlaff & Hooley, 1998)。
家族の対応におけるヒント
家族の状況や患者さんとの関係はそれぞれ異なるため、「絶対にこうすべき」という対応はありません。しかし、患者さんにとっても家族にとっても、前向きな影響をもたらしやすい対応はあります。
1. 病気への理解を深める
陰性症状は病気の一部であり、患者さんの「努力不足」や「やる気の問題」ではありません。
患者さん自身も「何とかしたいけど、どうにもできない」と苦しんでいることが多いのです。
「怠けているわけではない」「本人もどうしようもないのかもしれない」と理解することが、家族自身の気持ちを軽くすることにもつながります。
2. 小さな変化に気づき、プレッシャーをかけない
「どうして何もしないの?」と責めるのではなく、
「今日は○○ができたね」
「何か一緒にできそうなことある?」
と、患者さんのペースを尊重しながら、小さな変化を認めて共有することが大切です。
ただし、家族の言葉がプレッシャーになることもあるため、無理に行動を促さず、慎重に対応することが重要です。
心配な場合は、主治医や支援者と相談しながら進めるとよいでしょう。
3. 生活リズムを整えるサポート
• 食事の時間、起床・就寝時間を安定させる
• 外に出る機会を作る(散歩、買い物など)
• 活動のハードルを低くする(「部屋から出るだけでもOK」など)
無理に「やらせる」のではなく、「一緒にやってみる?」「○○してみるのはどうかな?」と、患者さんの負担にならないような形で声をかけてみましょう。
4. 専門家と連携する
「どこまで背中を押してよいのか、いつまで見守っていればよいのか、不安を感じる」という家族の声は少なくありません。
そのようなときは、医師、福祉関係の支援者、家族会などとつながり、家族だけで抱え込まないことが大切です。
また、心理教育プログラム(家族向けの学習会)に参加することで、同じ立場の家族の経験にもとづいた、さまざまな対応方法の「知恵」を学ぶこともできます。
5. 家族自身のケアも大切
患者さんを支えるためには、まずは家族が元気であることが重要です。
家族自身も相談できる人を持つ(他の家族、支援者、カウンセラー)、家族会などで情報共有をする、自分の時間を大切にし、リフレッシュする
「家族が休んで元気になることが、患者さんにとっても、それ以外の家族にとっても大切なことだ」ということを忘れずに、自分自身を大切にしてください。